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大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)54号 決定

抗告人 中島忠見

相手方 小沢利良

主文

原決定を取消す。

相手方の本件担保取消決定申立を却下する。

手続費用は全部相手方の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は、「相手方小沢利良は抗告人を被告として大阪地方裁判所堺支部に強制執行異議の訴等を提起すると共に強制執行停止決定の申請をしたところ、同裁判所は昭和三〇年(モ)第一九四号事件として、相手方に二十万円の担保を提供させて(大阪法務局堺支局昭和三〇年(金)第七六〇号)右強制執行停止決定をした。しかして右強制執行異議事件は昭和三十二年一月十一日裁判上の和解によつて終了したので、相手方は同裁判所に対し被担保権行使の催告及び担保取消決定を申立て、同裁判所は同年一月十九日抗告人に対し十日間の催告期間を以つて権利行使の催告をし、同年三月五日抗告人が右催告期間内に権利の行使をしなかつたから担保取消に同意したものとして、担保取消決定をした。しかしながら、抗告人は右催告期間内である同年一月二十三日被担保権利の行使として堺簡易裁判所に対し相手方小沢利良を相手として損害賠償請求の和解の申立をしたのであるから、抗告人が催告期間内に権利行使をしなかつたとしてなした原決定は不当であり、これを取消す旨の裁判を求める。」と言うにある。

よつて考えるのに、相手方小沢利良が抗告人所論の通り大阪地方裁判所堺支部に強制執行異議の訴等を提起すると共に強制執行停止決定の申請をし、同裁判所が同人に二十万円の担保(大阪法務局堺支局昭和三〇年(金)第七六〇号)を供させて強制執行停止決定をしたこと、右強制執行異議事件は昭和三十二年一月十一日裁判上の和解によつて終了したこと、相手方小沢利良は昭和三十二年一月十六日同裁判所に対し右被担保権利行使の催告を申立て、且右担保取消決定の申立をし、同裁判所は同月十九日抗告人に対し十日間の催告期間を定めて権利行使の催告をし、同年三月五日抗告人が催告期間内に被担保権利の行使をしなかつたから担保取消に同意したものとして、前記担保の取消決定をしたことは本件記録によつて明かである。

しかして本件記録中の和解申立書及び堺簡易裁判所昭和三二年(イ)第二号事件の調書の各謄本によると、抗告人は右催告期間内である昭和三十二年一月二十三日堺簡易裁判所に対し相手方小沢利良を相手として、前示強制執行停止による損害賠償請求につき和解の申立をしたが、右和解事件は同年三月二日不調として終了したことが認められる。およそ、強制執行停止決定を得るために供託した担保の権利者が、その停止のために被つた損害の賠償請求につき簡易裁判所に和解を申立てることは、右担保による被担保権利の存否竝に範囲等につき裁判上の確定を求めるものであつて、ひつきよう右権利を行使するものに他ならないから、たとえ右和解が成立しなかつたとしても、抗告人は催告期間内に前示担保に対する権利を行使したものと言うことができる。もつとも右和解の不成立に終つた場合において担保供与者である相手方は担保取消決定をえようとすれば改めて権利行使の催告を申立てればよいのである。

しかるに抗告人が催告期間内に権利行使をしなかつたものとして前示担保を取消すべきものとした原決定は違法であつて、取消すべきであり、相手の本件担保取消決定の申立は理由がなく却下すべきである。

よつて手続費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条に則り主文の通り決定する。

(裁判長判事 大野美稲 判事 石井末一 判事 喜多勝)

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